・エフティマイア ・オディール ・ソーマジック ・トールポピー ・ブラックエンブレム ・マイネレーツェル ・ムードインディゴ ・リトルアマポーラ ・レジネッタ ・レッドアゲート
オワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した下村脩さんが今年のノーベル化学賞を受賞することになった。このGFPは現代の生命科学の研究現場では欠かせない物質だそうで、生体内での分子の振るまいがこの光るたんぱく質によって手に取るように分かるようになったという。美しく青く光るクラゲについての関心から生まれた発見がいまや生命の謎解きに挑む最先端の研究者を支えているというのだから凄い。このニュースを聞いて、唐突ながら十数年前のトレセンでの出来事を思い出して残念がった私である。
「いやあ、土日の早朝の調教は昔からずっと真っ暗ななかでやってる。だから、スタンドで見守る調教師や記者が見やすくなるような方法はないかなと思ってヘルメットにランプつけてみたんだ。感想はどう?あと、ランプ以外の別なアイディアがないかなって考えてるんだけどなあ」
真顔でこう話したのはF調教助手。冬場の土曜朝3時半といえば漆黒の闇。点滅する薄赤い光は調教スタンド3階からでもはっきりと確認できた。ただ、彼が考案したこの騎乗者用ヘッドランプは数日後に姿を消した。周囲の馬が驚くとクレームがあったのか、それとも保安上の問題があったのかは定かではないが、NGとなったのは間違いなかった。F君に相談された段階でヘッドライトよりもクラゲの利用を考案していれば、彼と私がノーベル賞を受賞する可能性だって0.0000001パーセントぐらいはあったのだ。そう考えると口惜しいような、全然口惜しくないような気持ちである。独自の視点を持つなかなかユニークな存在だったF君は数年後にトレセンを去ったが、彼のことだから新たな仕事に就いて斬新な企画に取り組んでいるに違いない。
秋華賞の予定馬を確認して週刊誌用厩舎レポの割り付けをする。関西のレースはいつも私が担当してタイトル、写真、見出し、文章などの割り付けを考える。基本パターンに従って処理するので作業自体はそう難解ではないが、G1の場合は全4ページで総行数が928行。結構手間暇がかかるが、この日はいつになくスムーズに終了。“熟練の腕、巧の技よ”と悦に入っていた。ところが金曜日に突然メンバー中の2頭が出走回避して大慌て。美浦に事実確認し、繰り上がる馬の担当者に急きょ取材指令を出すなどバタバタ。もちろん当初の割り付けはNG。最初からやり直すこととなった。取材対象が生身の競走馬である以上こういったことは日常茶飯事でもある。判明したのが原稿の差し替えがきかない日曜の夕方でなかったのが不幸中の幸いではあった。
「ごぶさた致しております、競馬ブックの村上でございます。先日もご相談した件ですが、改めて当方の考えをお伝えしたく、本日電話を差し上げることになった次第です、はい。……」
ある執筆業の方に電話した。留守番電話だったのでやむなく用件をメッセージとして残したが、ややこしい案件で説明に30秒ほど要した。しかし、過去に例がないほどスムーズで一度もかむことなく流暢なメッセージが入れられて大満足。“一流アナウンサーやな”と呟きつつ余韻に浸った私。最近はカタカナ馬名を正確に言えず、口まわりの衰えを感じていたが、“口は最大の武器なり”との全盛期の自信が回復した。ところが、丸1日たっても2日たっても返事がない。改めて電話すると、またも留守電。訝しく思い編集担当者に電話番号を確認したところ、な、なんと番号自体が間違っていた。しかも、原因は私の一方的なミス。生涯唯一無二とも思える流暢にして完璧なメッセージはNGとなった。かけ直した電話は通常通りのしどろもどろの喋りになったが、それが現在の私の実態なのだから仕方ないとして、申し訳ないことがひとつ。突然、わけのわからん怪しげな人物から電話が入った《045−×××−××××》の番号の方には深く深くお詫びを申し上げます。
最後に週刊競馬ブックのPRをひとつ。10月20日発売の菊花賞特集号では、競艇月刊誌『BOATBoy』の黒須田守編集長がナリタトップロードと渡辺薫彦騎手のコンビが勝った1999年の菊花賞を『おもひでの名勝負』で思い入れタップリに書いている。この人馬のファンの方はぜひ目を通していただきたい。
競馬ブック編集局員 村上和巳
◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP